旅人の手記 三冊目 ‐ 蝉海のブログ -

日常のよしなし事や、マンガ・アニメ・ライトノベルなどのポップ・カルチャーに関する文章をつらつらと述べるブログ。その他の話題もたまに。とっても不定期に更新中。

アニメ『食戟のソーマ』におけるジェンダーの役割分担について

 先日、5期に渡ってシリーズが続いたアニメ食戟のソーマが最終回を迎えた。大変面白かった。とてもきれいな終わり方で、この作品らしい結末を迎えたように思える。
 さて。私は本作において最も注目した点は、登場人物の役割分担がジェンダー的に見て、極めて平等に構成されていることである。

 

 本作における女性キャラクターは皆、「自立した個人」としての役割を与えられ、誰一人として「女」であることを武器にしない。そして男性キャラも同様で、彼女らを「対等な個人・ライバル」として接している。彼らの関係性には性差はなく、性的なニュアンスも一切ない。恋愛感情すらほぼ描かれない。
 本作は「料理のリアクションとして、イメージの中で、または実際に脱衣する」というお色気描写を前面に出しているにも関わらず、作中のキャラ同士で「他人を性的な目で見る」場面はほぼない。これは、「性的な関係」の描写に頼る傾向が強い少年向けの娯楽作品において特筆するべきことだ。

 

 また本作は「競技モノ」としての側面においても、ジェンダー的配慮がなされている。競技モノというのは、本来性差が生じ得ない題材(将棋や囲碁などのボードゲームTCGなどのホビーものなど)であっても、「主人公と他のライバルは男ばかり」といったジェンダー不均衡が生じることが多い。
 ところが本作においてそれはない。終盤までずっと、あらゆる役割において男女比は均等のままだ。ほぼ全員がライバル同士。ただ競技者を献身的に支えたり、戦いの帰りを待ったりする役回りの人間は、全くと言っていいほどいない。生まれ持った性別で役割が決定されていることは、一切ない。

 

 本作の基底にある「ジェンダー的に対等なライバル同士」という構造の、その最大の象徴が主人公の幸平創真とヒロインである薙切えりなの関係性である。
 本作に、「主人公を慕う」という意味でのヒロインは存在しない。ヒロイン=ライバルだ。それも、常に主人公の「上」に立ち続ける。ストーリーの中では、何度かえりなが弱音を吐く場面がある。けれども創真は、男性が女性に対して「慰める」態度は一切取らない。ライバルとして「焚きつける」のだ。そこには、ジェンダーレスな、対等で、清々しい関係を見て取れる。

 

※ 以下、下記の作品についての核心的な部分のネタバレがあります。

アニメ『食戟のソーマ 豪ノ皿』

 

 本作は、創真がえりなに敗北して物語を終える。最終的にライバルに負ける結末で、しかもそのライバルが女性である少年マンガや料理マンガ、競技ものの先例を、私はパッと思いつけなかった。

 

 以上のように本作は、リアクションとして「おはだけ」や「喘ぎ声をあげる」などのお色気描写とは正反対に、キャラクター同士の関係性は、ジェンダー的にアップデートされた興味深い意欲作であると言えよう。この5期は、本当に楽しませてくれた。
 なお、私は原作を読んでおらず、以上の文章はあくまでも、アニメを視聴した限りでの感想である。もし、私の記述が「原作と食い違う」箇所があるならば、忌憚なき意見を伺いたく考える。

 

(Now playing: nano.RIPE『エンブレム』)