『コミティア30thクロニクル 第1集』読みました
先日『コミティア30thクロニクル 第1集』(編・コミティア実行委員会)を読了しました。
感想を書こうと思ったのですが、大変多くの作品が収録されているため、
気になったいくつかの作品だけ言及したいと思います。
全体の感想については読書メーターの方に上げているので、こちらを参照ください。
※『作品名』(作者名/サークル名)
『サンディと迷いの森の仲間たち』
(内藤泰弘/鴨葱スウィッチブレイド)
『トライガン』で知られる内藤泰弘さんが初めて作った同人誌より。
私が初めて読んだのは、一昨年出た個人誌総集編『S.Flight』だった。
真に素晴らしいエンターテイメント作品である。
ハイセンスなデザイン、緻密な世界設定、エシカルなテーマと、
現在の氏のエッセンスは、初作品において既に顕然としている。
前にティアズマガジンで中村さんが絶賛していたが、
この作品を最初に掲載したのはベストな判断だったと思う。
あのTYPE-MOONの武内崇氏が『月姫』発表とほぼ同時期に発表したコメディ。
率直に言って、指や手のデッサンや背景がかなり不安定。
『月姫』と同時進行だったことを考慮しても、これはきびしい。
特長であるシンプルながらもキャッチーなキャラデザは良いのだが……。
内容は可もなく不可もなく。
氏の特徴である、メイド愛だけはしかと分かった。
あとオノマトペや書き文字のセリフに、内藤泰弘氏の影響を感じた。
『開けっ!』
(あらゐけいいち/ヒマラヤイルカ)
『日常』(角川書店)で有名なあらゐさんが、連載前に発行した同人誌。
内容は、ほとんどが小説家志望の少女の独白で占めている。
この手のモティーフはともすれば、著者の自意識に比重がかかり過ぎて、
作品としての完成度を阻害してしまう危険性も高いのだが、
これは演出が上手く、充分に一つのエンターテイメントとして成立している。
最後のモノローグがタイトル・表紙につながっているという構成も良い。
余談だが本誌はこの作品の他にも、
『同人誌を作ってみた。』(双見酔/下り坂道)
『シマウマにはシマがある』(BELNE/アートファクトリィ)
『R.P.E』(TAGRO/放送塔)など、
クリエイティブな趣味や職業をテーマにしたものが多い。
『余命100コマ』
(おーみや/Happa)
評判が良くしょっちゅうタイトルを耳にするので、気になっていた一遍。
死神に余命100コマと告げられた女の子のコメディ。
一言でいってしまうと、発想の勝利といったところ。
この手のメタ的なモティーフは作者の自己満足に陥り易い危険性があるが、
本作はネタとして巧く本筋に落とし込んでいる。
マンガという表現媒体の可能性の拡張に挑戦した、秀作。
『SUMMER SONG』
(南研一/Parking)
まったく予備知識なしで読んだ。
あとがきによると著者は現在、マンガを描いていないようだ。
内容は一昔前に流行ったようなディストピアSFに、
青春の葛藤と自意識を絡ませたようなストーリー。
灰色の世界において、青年達が「物語」を求め
青臭く身勝手で純粋な意志を尖らせていくドラマツルギーは、
ポストモダン的というか脱構築的というか――、
まあこのあたりからも80〜90年代的なニオイがする。
けれども、だからこそ創作同人らしいというか、
「コミティアらしさ」を感じる作品であるとも思った。
本作を最後に掲載した意図はなんとなく分かった。