旅人の手記 三冊目 ‐ 蝉海のブログ -

日常のよしなし事や、マンガ・アニメ・ライトノベルなどのポップ・カルチャーに関する文章をつらつらと述べるブログ。その他の話題もたまに。とっても不定期に更新中。

『コミティア30thクロニクル 第1集』読みました

先日コミティア30thクロニクル 第1集』(編・コミティア実行委員会)を読了しました。
感想を書こうと思ったのですが、大変多くの作品が収録されているため、
気になったいくつかの作品だけ言及したいと思います。
全体の感想については読書メーターの方に上げているので、こちらを参照ください。


※『作品名』(作者名/サークル名)

『サンディと迷いの森の仲間たち』
内藤泰弘/鴨葱スウィッチブレイド

トライガン』で知られる内藤泰弘さんが初めて作った同人誌より。
私が初めて読んだのは、一昨年出た個人誌総集編『S.Flight』だった。

真に素晴らしいエンターテイメント作品である。
ハイセンスなデザイン、緻密な世界設定、エシカルなテーマと、
現在の氏のエッセンスは、初作品において既に顕然としている。
前にティアズマガジンで中村さんが絶賛していたが、
この作品を最初に掲載したのはベストな判断だったと思う。


メイドさんは魔女』
武内崇/竹箒)

あのTYPE-MOON武内崇氏が『月姫』発表とほぼ同時期に発表したコメディ。
率直に言って、指や手のデッサンや背景がかなり不安定。
月姫』と同時進行だったことを考慮しても、これはきびしい。
特長であるシンプルながらもキャッチーなキャラデザは良いのだが……。
内容は可もなく不可もなく。
氏の特徴である、メイド愛だけはしかと分かった。

あとオノマトペや書き文字のセリフに、内藤泰弘氏の影響を感じた。


『開けっ!』
あらゐけいいち/ヒマラヤイルカ)

『日常』(角川書店)で有名なあらゐさんが、連載前に発行した同人誌。
内容は、ほとんどが小説家志望の少女の独白で占めている。
この手のモティーフはともすれば、著者の自意識に比重がかかり過ぎて、
作品としての完成度を阻害してしまう危険性も高いのだが、
これは演出が上手く、充分に一つのエンターテイメントとして成立している。
最後のモノローグがタイトル・表紙につながっているという構成も良い。

余談だが本誌はこの作品の他にも、
『同人誌を作ってみた。』双見酔/下り坂道)
『シマウマにはシマがある』(BELNE/アートファクトリィ)
『R.P.E』TAGRO/放送塔)など、
クリエイティブな趣味や職業をテーマにしたものが多い。


『余命100コマ』
おーみや/Happa)

評判が良くしょっちゅうタイトルを耳にするので、気になっていた一遍。
死神に余命100コマと告げられた女の子のコメディ。

一言でいってしまうと、発想の勝利といったところ。
この手のメタ的なモティーフは作者の自己満足に陥り易い危険性があるが、
本作はネタとして巧く本筋に落とし込んでいる。
マンガという表現媒体の可能性の拡張に挑戦した、秀作。


『SUMMER SONG』
(南研一/Parking)

まったく予備知識なしで読んだ。
あとがきによると著者は現在、マンガを描いていないようだ。

内容は一昔前に流行ったようなディストピアSFに、
青春の葛藤と自意識を絡ませたようなストーリー。
灰色の世界において、青年達が「物語」を求め
青臭く身勝手で純粋な意志を尖らせていくドラマツルギーは、
ポストモダン的というか脱構築的というか――、
まあこのあたりからも80〜90年代的なニオイがする。
けれども、だからこそ創作同人らしいというか、
コミティアらしさ」を感じる作品であるとも思った。
本作を最後に掲載した意図はなんとなく分かった。