旅人の手記 三冊目 ‐ 蝉海のブログ -

日常のよしなし事や、マンガ・アニメ・ライトノベルなどのポップ・カルチャーに関する文章をつらつらと述べるブログ。その他の話題もたまに。とっても不定期に更新中。

蕨市立図書館でアニメ映画『虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜』を鑑賞

昨日ですが、蕨市立図書館で夏休み特別企画として
アニメ映画虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜』の上映会がありました。
入場は無料であり蕨市民でなくても参加できるとのことで、鑑賞してきました。

予告ポスターが数週間前から張り出されていて、
それを見る限りではケレン味のないジュブナイルのような感じでした。
(観てみると、実際そうだったのですが)
なので、「これは子どもの客は来ないんじゃないかな」とか思っていたのですが、
意外にも客の大半が小学生の子どもでした。
子どもたちだけで来ているグループもあれば、
親子や家族連れで来ている人たちも多かったです。
大人が一人で来ているなんて、私ぐらいじゃないかというくらい、
子どもやファミリー層が多かったですね。
まあ、これがこの手の映画が本来対象としている客層なのだから、
よくよく考えれば別に不思議でもなんでもないですね。
それとお客さん自体も結構多かったですね。
ごく普通の大部屋で上映し、
三十席くらいの椅子とやわらかいパルプの床敷きが用意されていたのですが、
それらの半分以上が埋まっていました。
無料というのに、引かれた人(特にこづかいが少ない子どもたち)も多そうです。

それで肝心の映画ですが、ポスターで受けた印象と違わぬ内容で、
ノスタルジックな雰囲気いっぱいのオーソドックスなジュブナイルSFでした。
こうした作風が好みの私としては、それなりに楽しめる内容でしたね。
1977年のとある村にタイムスリップしてしまった現代の小学生の男の子が、
現地の人々や美しい自然との出逢いを通じて「生きていくことの大切さ」
を知るというストーリーであり、まあ王道ですね。

原作はオンライン小説です。

「虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜 TOP」
(作者公式サイト「@エンヂェルのプライベートビーチ」内)

ネット小説というとどうしても、
玄人好みのRPGパロディや最強主人公系、
またはケータイ小説にあるような恋愛物や生き残りゲーム系とか、
そうしたケレン味があるか過激な内容の作風の作品が目立ちがちであります。
けれども、そうした潮流の中でこうした朴訥な世界観をした作品も、
しっかりと存在し評価されているということ、
そうした事実を改めて知らされました。

映画の話に戻ります。
作画や演出ですが、
とにかく全体通じてノスタルジーを描きたてられる様な描写が多く、
鄙びた田舎町や美しい自然の情景は極上でした。
木漏れ日溢れる山の中、はじける川の水、強い日差し、静謐な暗闇で光る蛍の群れ、
背景描写は誰もが美しいと感じるようなクォリティと言い切れます。
ただ問題なのは、キャラクターデザイン。
筆ペンで描いたような強弱が激しい描線を基調としており、
これは極めて独特に感ぜられました。
この手の一般層向けアニメ(ジブリや、細田守作品、原恵一作品など)
でもほとんど見受けられない技法であります。
このアニメに使われている全てのカットは、一切CGを使わず手描きでかかれていて、
本作がロードショーされた時にはそれを売りの一つとしていたようです。
そうした「手製」感を醸し出したくてこういう表現にしたのかと思いますが、
人を選ぶ画風であることは違いないでしょう。
私としては、変にリアルに描かれているよりも、
ずっとデフォルメが効いていていいかなと思いました。

またこの作品、キャストやスタッフがとても豪華。
メインキャラクターである子どもたちは、
基本的に子役の役者さんたちで固められているのですが、
大人のキャラクターを担当するのは非常に著名なベテラン声優ばかりです。
櫻井孝宏さん、能登麻美子さん、中井和哉さん、大塚周夫さん、
石田太郎さん、堀内賢雄さん、岡村明美さんと、
アニメにそこまで深く知らなくても名前を聞いたことあるような人たちばかりです。
それと何より、音楽プロデューサーの松任谷正隆さんと
シンガーソングライターの松任谷由美さんの松任谷夫妻による音楽は、
さすがに素晴らしかったです。
松任谷正隆さんの作曲した劇中音楽は、全て生音を使用しているんですね。
これが、CGを一切使わないやわらかな作画、作品の世界観によく合っている。

このように作画・役者・音楽と、
映画を構成するそれぞれの諸要素が全編に渡りクォリティを引き上げてくれて、
演出面ではクライマックスの一部(後述)を除き、
文句なしの出来栄えだったといえるでしょう。

ここから、ネタバレありの感想です。


さすがにストーリー自体には、これといった矛盾点や破綻したところもなく、
精緻に紡がれた優良なプロットであったと思います。
ストーリー展開にも一ひねりが加えられていて、見ごたえがありました。
タイムスリップして最初に出会い、1977年の子だと思っていたさえ子が、
実はユウタと同じく現代から来た子だったという事実が明かされた時は、
さすがに驚きました。
ユウタが蛍じいの手によって
「この時代に溶け込めるよう人間関係を操作された」のと同様、
さえ子も同じような処置を施されていたという展開は、上手いなと。
こういう別の世界に主人公が言ってしまう場合、
やっぱりヒロインって大抵は別の世界の人間であり、
その世界とマレビトである自分の仲介役であるものですからね。
当初はさえ子もそうした役回りとして描かれるのですが、
不自然にならないレベルで徐々にその綻びが見え始め、
さえ子というキャラクターの正体が明かされていくプロット。
この構成には、なかなか舌を巻くものがありました。

そして現代に戻り、
互いの記憶と1977年でのできごとに関する記憶を失ったのにも関わらず、
「ホタル狩り」を催していた村で偶然また再会する終盤。
そして、村に伝わる伝説の「虹色ほたる」が一斉に飛び回るラスト。
お約束な展開ではあるけれど、やっぱり引き込まれましたね。
このシーンを観て鳥肌が軽く立った時、本作を観て良かったと思いました。

ただ、クライマックスでのユウタがさえ子の手を引っ張って、
灯篭の道を走り抜けるシーン。
画風が劇画調へと変わる演出は、いらなかったのではないかと思います。
こういう表現方法も前例がないわけではないのですが、
やはりそれまでの絵柄で楽しみたかったかな、と。