旅人の手記 三冊目 ‐ 蝉海のブログ -

日常のよしなし事や、マンガ・アニメ・ライトノベルなどのポップ・カルチャーに関する文章をつらつらと述べるブログ。その他の話題もたまに。とっても不定期に更新中。

元(現役も)生徒会役員に読んで欲しいマンガ『んぐるわ会報』


『んぐるわ会報』1巻(高尾じんぐ スクウェア・エニックス)表紙

ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)という雑誌で
大分前に連載していたマンガに、
『んぐるわ会報』(高尾じんぐ)という作品があります。
この作品は、近年流行りのいわゆる
「生徒会もの」の一つとして数えられるでしょう。
同ジャンルの他作品と比べても、
生徒会の活動ぶりをかなり精緻に描いているということで、
生徒会役員を2年間経験したことのある私は大分前から注目していたのですが、
先日とある機会があって、ようやく全巻購入することにしました。

正直なところ、「生徒会役員」を主役に据えたマンガというのは、
明らかに生徒会の管轄内を超えているような権力を発揮したり、
あるいは現実で執り行うような活動とは遠く離れた
「活劇」を繰り広げたりなど、
かなりぶっ飛んだ内容のものが多いです(笑)(小川雅史の『速攻生徒会』など)
または、
いわゆる弱小文化部の「だべり物」をそのまま生徒会に置き換えたような
ものが近年の主流となっております。
(『生徒会の一存』シリーズ、『生徒会のヲタのしみ』など)

まあそんな風に、
「生徒会活動」事態をある程度のリアリティを以ってモチーフにしている
マンガ・アニメ作品というものは、極々少数となっているのが現状であります。
そのような中でこの作品は、
かなり現実的に生徒会活動を描いている特筆すべき存在といえるでしょう。


『んぐるわ会報』1巻(高尾じんぐ スクウェア・エニックス)P.190〜191

上の画像をご覧下さい。
これは「自販機にペットボトルの飲み物を追加するか」という議題について、
週に一度開かれる「定例会議」の場で真剣に論議している様子が、
かなり丁寧に描かれています。
この場面では、議案を職員会議にかけてもらう条件としての
全校アンケートと署名をどうするかという話をしていますが、
このような役員会による地道な活動が、物語の節々で取り上げられています。

また、彼らの活動振りを示した描写としては、次のようなものもあります。


『んぐるわ会報』3巻(高尾じんぐ スクウェア・エニックス)P.117

これは見ての通り、
文化祭準備日における実行本部室の様子を描いた一場面です。
待機している本部役員の女の子が
「書類の判押しばかりで、朝から軟禁状態だ」とぼやいていますが、
こうした経験は二度文化祭の運営側を経験しているものとしましては、
大変身に覚えのある状況でありまして(笑)
あの文化祭の準備期間という、混沌とした空気をよく描いていると思います。

作中で描かれる本部役員は、全部で5人から構成されています。
まずは、マイペースで常に飄々とした態度を取る3年生の生徒会長(本名不明)
(1巻表紙、2枚目の画像・右ページ4コマ目)
副会長は、
面倒見の良く穏やかな性格をした2年生の常盤と、
(2枚目の画像・右ページ2コマ目の右部、茶色のストレートロングの子)
常盤の幼馴染でぶっきら棒な口ぶりをする2年生の成子の2人
(3枚目の画像・黒髪短髪で右目が隠れている女の子)
それと、元気いっぱいでムードメーカーである1年生・書記の里見。
(2枚目の画像・左ページ3コマ目、ショートヘアの女の子)
最後に、謹厳実直な性格をして至極真面目な1年生・会計、松戸。
(2枚目の画像・左ページ2コマ目、短髪で長身の男子)
上記5人で、この学校の本部役員会が成立しています。

私が高校で生徒会をやっていた頃は、
会長1人、副会長2人(男女1人ずつ)、書記2人(男女1人ずつ)、会計2人(同左)
という7人構成であり、5人というのは少なく感じました。
私が卒業してからは立候補者が足らずに、5人だった時期もありましたが、
元役員の現役3年生が文化祭の時に、助っ人として相当に手伝いをしていたなど、
やはりかなり苦戦を強いられたと、後輩から伺っております。
ただそれでも本作の場合では、
予餞会(三年生を送る会)、新歓、文化祭などの各行事における実行委員会が、
相当しっかりしていて、よく働いてくれるようですので、
それなら、この人数で業務も回るのかもしれません。
(私の生徒会役員をやっていたときは、実行委員会を満足に機能させられず、
 殆どの行事における業務を、
 役員や役員と親しい生徒が直接執り行っていました)

定例会議、募金活動、新歓・文化祭などの行事、先生の雑用手伝い、等々、
どれも身に覚えがある活動ばかりで、
本作を読みながらついつい、自分の現役時代のことを思い出してしまいました。

しかし中には、私が現役のときに経験していないような活動も、
この作品の中では多数描かれていましたね。

その中でも特に作中で取り上げられるのは、地域ボランティア関連です。
町内のごみ拾いに始まり、幼稚園の訪問、高齢者介護施設の手伝い等々。
私が現役の頃はこのような活動をしたことが殆どなく、
地元の祭りに何人かの役員が有志で出たことがあるくらいです。
本当はもっとこういう活動をすると、
地域と学校における綿密なコミュニティ形成ができて、良いのですけれどね。

作中ではさらに、入学試験の試験官業務まで生徒会が手伝っています。
これは全く経験がなく、読んだ時はかなり驚きました。
気になったので調べてみましたが、
どうも学校によっては行うところもあるようです。

総合的に見て、概ね満足できる出来栄えの作品でした。
生徒会とは生徒全員で構成される政治機構であり、
本部役員会は全校生徒の利害を代表する機関であるという、
「政治教育」の側面としての
生徒会というファクターは前に出されていないところが、
少々不満として残りましたが、
これほど生徒会の活動を詳細に描いている作品も少ないため、
一読する価値は充分にあると言えるでしょう。

現役生徒会役員や元役員の人にちょっと読んでもらいたい作品だな、と思いました。